認知症はとても身近な病気です

9月21日は認知症の日
9月は「認知症月間」です

タイトル

2040年には高齢者のおよそ3人に1人が認知症または軽度認知障害となると推計¹⁾されており、認知症は誰もがなりうるものです。

認知症があってもなくても同じ社会で共に生きる仕組みを整えるため、令和6年1月に「共生社会の実現を推進するための認知症基本法(認知症基本法)」が施行され、認知症の人とその家族が尊厳と希望を持って安心して暮らせることを目指しています。

今回は、都立病院の認知症看護認定看護師が、とても身近な認知症についてお話します。

どのような病気?

① 認知機能障害による生活のしづらさが起こる

脳は私たちのあらゆる活動をコントロールしている司令塔です。認知症とは、いろいろな原因で脳の細胞が傷ついたり、働きが悪くなることで「認知機能」が低下し、脳の指令がうまく出せなくなり、さまざまな生活のしづらさが現れる状態を指します。

「認知機能」とは「ものごとやまわりの世界を正しく理解し、適切に実行するための機能」のことで、記憶する、言葉を使う、計算する、問題を解決するために深く考えるなどの脳の働きのことです。認知機能が障害されることで日常生活がうまくいかなくなるわけです。影響を受ける認知機能は認知症の原因によっても異なり、記憶障害だけがおこるのではありません。また、人によって症状は違います。

② 生活のしづらさ(生活機能障害)とは

生活を行うための機能には、基本的な日常生活動作と、より複雑な生活するための動作があります。この中でも、認知機能障害による生活のしづらさでは「買い物」「食事の支度」「薬の服用」などが早期から低下しやすいといわれています。

図1

③ 行動・心理症状

生活がしづらくて不安で困っているところに、からだの不調や適切な支援のない生活環境、不適切な対応などの強いストレスが加わると、行動・心理症状と呼ばれる症状が起こることがあります。

焦燥・興奮、攻撃的な言動や行動、歩き続けるなどの行動面の症状と、不安、気分の落ち込み、妄想、意欲の低下などの心理面の症状があります。

介護のうえでも問題となることが多く注目されやすいですが、その人の生活の困りごとに合ったサポートを受け、安心して暮らすことが出来れば、起こらない人も多くいます。

また環境の調整や対応の工夫、薬物療法などで改善する可能性があります。

MCIとは

MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)という段階(グレーゾーン)があります。MCIとは、認知機能に問題が生じてはいますが、認知症と違い、日常生活には支障がない状態のことを言います。

MCIは適切な治療・予防(食習慣を見直し、定期的な運動習慣、いろいろな人とコミュニケーションをとることなど)で認知機能の改善や維持をすることで回復したり、発症が遅延したりすることがあります。

詳しい資料には、「あたまとからだを元気にする MCIハンドブック」(厚生労働省)などがあります。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/kibou_00007.html(外部リンク)

加齢による「もの忘れ」と認知症による「もの忘れ」の違い

年をとると誰もが「もの忘れ」を経験することが多くなります。
これは体験したことの一部分を忘れてしまう、思い出せないといった加齢現象です。

認知症では「いつ、どこで、何をしたか」という出来事の記憶(エピソード記憶)の障害が目立ち、体験したことのすべてを忘れてしまうという特徴があります。

認知症では脳の海馬という部分の機能障害によって「もの忘れ」というより「新しいことを覚える、覚えていることが難しい」と考えると理解しやすいと思います。

図2

認知症の原因となる病気

認知症を引き起こす原因はさまざまですが、全体の半数以上が脳の神経細胞が徐々に失われていくアルツハイマー型認知症です。
次いで血管性認知症、レビー小体型認知症が多いと考えられています。
年齢が若くてもなる若年性認知症もあります。

また、認知症のような症状を引き起こす病気もあり、これらは甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症、正常圧水頭症、慢性硬膜下出血など治療で改善が見込めるものがあります。

認知症は治らないからと思わず、受診することも大切です。

認知症とともに生きるために

認知症になったら、その人に合ったケア、環境調整、リハビリ、治療薬などを組み合わせて、日常生活での困りごとを少なくするための支援が受けられます。

認知症になっても、家庭や社会の中で役割を持ち、生きがいや楽しみのある自分らしい生活を送ることができます。

認知症について相談できる窓口には、お住いの地域包括支援センターや医療機関、認知症カフェ、認知症の人と家族の会などたくさんあります。

認知症になっても安心して暮らせるように

脳の中でおこる認知機能障害は外からはみえません。なので、認知症の人がどのような不自由さを抱えているかについて周りの人に気付いてもらえないことが多いと言われます。

「まわりの人の認知症についての考え方がその人の状態を大きく左右する」という言葉の通り、認知症でおこることを正しく理解して、上手にその人に合った支援ができれば、認知症の人はもっと暮らしやすくなります。

ぜひ認知症の人が何を思いどうしたいのか、本人に教えてもらったり想像してみてください。

自分が困ったときに誰かに助けてもらいたいと思うのと同じように、認知症の人が困っていることをまわりの人がそっと手伝うことで、認知症があってもなくても安心して暮らせる社会につながっていくのではないでしょうか。

1)「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」令和5年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業分)厚生労働省

最終更新日:令和6年7月31日