7月28日は日本肝炎デー
その1週間は「肝臓週間」です
近年、患者数が増えている「非アルコール性脂肪性肝疾患」。「非アルコール性」というからには、「お酒の飲みすぎ」は病気の原因ではなさそうです。お酒を飲まなくても注意が必要な肝臓の病気について、東京都立駒込病院 肝臓内科部長の木村公則先生にお話をうかがいました。
都立駒込病院
肝臓内科部長
木村 公則
大きな肝臓の偉大なはたらき
肝臓は人間の内臓のなかでもっとも大きな臓器で、成人では1.2kg前後の重さがあるといわれています。そんな大きな肝臓のはたらきにはおもに次の3つがあります。
代謝
食事などから摂取した栄養素を分解し、生きていくうえで必要なエネルギー(タンパク質)につくりかえる
貯蔵
食事などから摂取し、余った栄養素を脂肪にして蓄える。必要なときにはそれをエネルギーにつくりかえる
解毒
アルコールや薬に含まれる有害な物質を毒性の低いものにつくりかえ、尿などとともに排泄する
このように肝臓は活動に必要なエネルギーをつくったり、人体に悪影響を及ぼす有害物質を解毒したりと、その役割は生命の維持に欠かせないものです。
患者数増加 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)とは
「肝臓の病気はお酒が原因」と思っている人が多いかもしれませんが、世界的規模で患者数が増えている「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:ナッフルディ)」は、お酒を飲まなくても生活習慣の乱れから発症します。NAFL(ナッフル)はいわゆる「脂肪肝」の状態で、この時点ではほとんど症状はありません。
しかし、NAFLDであるにもかかわらず、適切な対応をせずにいると「非アルコール性脂肪肝炎(NASH:ナッシュ)」という一段階重い病気へ移行します。これをさらに放置すると「肝硬変」や「肝臓がん」のようなさらに重たい病気に移行することがあります。
日本におけるNAFLDの患者さんは2,000万人程度いると考えられており、そのうちの10~20%の200~400万人がNASHであるとみられています。この傾向は今後さらに拡大すると考えられていて、2030年までに日本人の約40%、2040年までには45%がNAFLDを患うと推計されています。この試算は、日本の全人口に対してのものなので、成人に限定すれば、半数以上の人がNAFLDになってしまうのです。
NAFLDの患者さんは働き盛りの世代に多く、女性では閉経後から増加していきます。
肝臓の異変にいちはやく気づくためには
肝臓は「沈黙の臓器」といわれるように、病気になってもほとんど症状はありません。つらい倦怠感や黄疸(おうだん)がみられたときにはすでに進行していると考えてよいでしょう。
自覚症状があまりない肝臓の異変にいちはやく気づくためには、定期的に検診を受けることが大切です。血液検査では「AST」と「ALT」という検査項目に注目してください。これらは肝細胞が壊れているかどうかを調べる検査で、日本肝臓学会ではALTが30を超えたら病院への受診を勧めています。検診で「要再検」となったら、必ず病院で詳しい検査をしてください。
ほかにも肝機能が低下してくると血小板の数値が下がります。具体的には、18万/μL以下になったら受診をしてください。
また、若いころに比べて10kg以上体重が増えた人は、NAFLDの発症リスクが高いと考えられます。心当たりのある方はしっかり検診を受けてください。
受診する診療科は「肝臓内科」があったら、そちらへ。肝臓内科という診療科がない病院でしたら「消化器内科」を受診してください。病気を特定するためには「肝生検」を行います。肝生検は肝臓の組織の一部を採取し、それをもとに肝細胞の脂肪化の程度や炎症や線維化(臓器が硬くなること)の有無などを顕微鏡で確認する検査です。
NAFLDやNASHにならないためには
NAFLDの発症と生活習慣病は密接にかかわっていて、肥満になると肝臓にも脂肪がつき、脂肪肝になります。NAFLDの患者さんの約50%が脂質異常症を、約40%の人でメタボリックシンドロームを合併しているという報告があります。また、糖尿病患者さん1,918名を対象に調査したところ、全体の73%がNAFLDに該当し、うち18%の人で線維化が進行した状態(肝硬変の手前)に移行していると考えられるという結果がでています1)。
NAFLDにならないためには、生活習慣を見直し、適正体重を目指します。日本ではBMI 25以上を肥満としています。
【BMIの求めかた】
体重(kg)÷(身長(m))2 =BMI
例)体重80kg、身長170cmの人のBMI
80÷(1.7×1.7)=27.7(肥満判定)
NAFLDやNASHと診断された肥満の患者さんに対しては、現在の体重の7%を減量するように指導します。体重80kgの人でしたら、マイナス5.6kgを目標に74.4kgを目指します。主治医から食事療法や運動療法の指導があると思いますが、最初に頑張りすぎずに継続することが何より大切です。
食事療法
脂質を控えめに、魚や野菜はたっぷりと!
・肉を食べるなら脂質の多いバラ肉ではなく、ヒレ肉を選ぶ
・甘いものの食べすぎには注意
・野菜はたっぷり食べてOK!
運動療法
自分が好きな運動をしてみよう
・最寄り駅の1つ手前で降りて歩いてみよう
・毎日コツコツ!継続こそが重要
適正体重に戻し、それを維持することは、肝臓の病気によい効果をもたらすだけではなく、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病にもよい効果をもたらします。
肝臓専門医からのメッセージ
肝臓の病気にはウイルス性肝炎といって、ウイルスに感染することで発症するものがあります。B型肝炎、C型肝炎という病名を聞いたことがあるでしょう。これらの感染ルートはおおよそ限定されていますので、予防対策をたてやすいともいえます。
一方、今日お話した生活習慣病とかかわりの深いNAFLDやNASHは、誰でもなりうる病気です。実際に患者数が右肩上がりで増えています。
肝臓は「沈黙の臓器」。症状がでたときには肝臓が悲鳴を上げているともいえます。どうか「沈黙の臓器」の小さな声に気づくために、定期的に検診を受けてください。数値が基準値を超えていたら、すぐに病院を受診しましょう。働き盛りの年齢で発症することが多いため、仕事を優先し受診を先延ばしする人が少なくありませんが、早期に気づき、早期に対策を行うことで、肝臓の健康を維持することが可能です。
もし、NAFLDと診断されたら、NASH、肝硬変、肝臓がんと重篤な病気に進まないように、食事療法、運動療法を生活に取り入れ、適正な体重管理を心掛けましょう。
病気の名前が変わる
今回のコラムでもたびたび登場したNAFLD、NASHという病名が今後変わります。
脂肪性肝疾患の略称を「SLD」とし、メタボリック症候群の基準の一部を満たすものには「Metaboric(メタボリック)」の頭文字「M」をつけて、それぞれ「MASLD(マッスルディ)」「MASH(マッシュ)」という名称になります。
1)Kwok R et al. Screening diabetic patients for non-alcoholic fatty liver disease with controlled attenuation parameter and liver stiffness measurements: a prospective cohort study,GUT, 2016 Aug;65(8):1359-68.
最終更新日:令和6年7月10日