6月4日~10日は
「歯と口の健康週間」です!
人生100年時代! いつまでも元気に暮らしたいと積極的に運動をしている人も多いことでしょう。でも、ちょっと待って。お口の健康が全身の健康状態を左右するということをご存じですか? 近年注目が集まる「オーラルフレイル」について東京都立荏原病院 歯科口腔外科部長の長谷川士朗先生にお話をうかがいました。
都立荏原病院
歯科口腔外科部長
長谷川 士朗
健康維持はお口から
オーラルフレイルとは
「オーラルフレイル」は、口という意味の「オーラル」と虚弱という意味の「フレイル」という言葉を組み合わせた造語です。つまり、オーラルフレイルとはお口の機能が衰えた状態をいいます。
オーラルフレイルのサインはこれ!
お口の機能には、食べ物を噛む、食べ物を飲み込む、話す(発音)などがあります。これらの機能の衰えは次のようなサインから気づくことができます。
自分の歯が少ない人や固いものが噛めない人では、タンパク質が豊富な肉や魚よりもやわらかいおかゆやうどんなどの炭水化物、糖分の多いお菓子などを好むようになります。歯が少ないと野菜も食べにくくなるので、ビタミンの摂取が不足し栄養バランスが偏るようになります。その結果、低栄養や体重減少を引き起こすことにつながります。また、歯が少ない人や入れ歯をしていない人は噛み合わせのバランスが悪くなるため転倒しやすく、認知症にもなりやすいといわれています。
むせる、食べこぼすようになるのは、舌や頬、唇の力の衰えが原因です。食べたものや飲みものを上手く飲み込めないと気管に入ってしまい、誤嚥(ごえん)を引き起こす危険性が高まります。誤嚥を防ぐことは肺炎予防にもつながりますので、大事なところです。
滑舌が悪くなったり、お口のにおいが気になったりすると、人前に出ることを避けるようになり、社会との接点が少なくなることが心配されます。その結果、心理的・精神的な衰えにつながることがあります。
5つのサインのうち、該当するものが2つ以上あればオーラルフレイルと考えてよいでしょう。しかし、これらはある日突然現れるのではなく、徐々に衰えていくため、なかなか本人は気づかないことがあります。早めにオーラルフレイルに気づくためには、定期的にお口のケアをしてもらう「かかりつけ歯科医」をもつことが大切です。
オーラルフレイル対策
コツコツ続けることが大切
オーラルフレイルはお口の機能が衰えているものの、病気までには至っていない状態をいいます。オーラルフレイルのサインに気づいたら適切な対策をとることで健康な状態に戻せます。ここで代表的な対策を紹介しますので、「大したことない」と放っておかずに毎日の生活に対策を取り入れてみてください。
ぶくぶくうがい・がらがらうがい
お口に少量の水を含み頬を膨らませるようにぶくぶくとうがいします。くちびるや舌、頬などお口の周辺の筋力を鍛えることができます。
がらがらうがいは、水を含んだら上を向いて息を少しずつ吐きながらがらがらとうがいをします。口の中に入れた水を誤嚥したりしないように気をつけて行ってください。
唾液腺マッサージ
お口の中が乾燥するとむせて誤嚥しやすくなります。また、歯垢の増加や口臭の原因になることもあります。お口の乾燥が気になるときには唾液腺マッサージを行います。耳の下の耳下腺(じかせん)、あごの下の顎下腺(がっかせん)、あご先の内側の舌下腺(ぜっかせん)を親指以外の4本の指でやさしく円を描くようにマッサージします。
舌のストレッチ
舌を「ベー」と出したら、舌先で上唇に触れます。その後、同じように左右の口角にも舌先で触れます。舌の筋力を鍛えることで、スムーズに食べたり飲み込んだりできるようになります。
パタカラ体操
(飲み込みのトレーニング)
「パ」「タ」「カ」「ラ」という発音をするためにはそれぞれ異なる舌の動きをしなければなりません。それを利用したお口の筋トレです。「パパパパパパパパパパ」「タタタタタタ……」とそれぞれ10回繰り返すことでお口の周りの筋力と飲み込む力が鍛えられます。
8020運動で歯の健康は向上
8020(ハチマルニーマル)運動とは、「80歳になっても20本以上自分の歯を維持しましょう」という健康推進運動です。年々8020の達成率は高くなっており、令和4年には、8020達成者率は51.6%1)と過半数を超えています。ただし、多くの歯が残っていればよいというわけではありません。噛む力や飲み込む力が低下することで食事がしっかり摂れなくなる方もいます。
一方、8020を達成できなかった人でも、その人に合った入れ歯を使うことで、しっかり噛んで食べることができます。自分の歯を失っても残った歯をしっかりケアし、入れ歯をしっかり調整するということが大事なのです。
食べることは生きること
楽しい食事は幸せな人生をつくる
私は「食べることは生きること」だと考えています。野生動物は食べられなくなると死んでしまいますよね。一方、人間は口から食べられなくなってもチューブを使って栄養を取り入れることで生命を維持することはできます。それでも口から食べるということは栄養摂取以上の喜びを与えてくれると思います。
さらに、誰とどこでどうやって食べるかということも重視すべきでしょう。新型コロナウイルス感染症が流行しているときには「個食」「黙食」が推奨されましたが、やはり食事は誰かと楽しくおしゃべりしながらするのが幸せなことだと思います。家族でも友人でも楽しい食事の時間をもつということは健康的な生活を支える一つの要素でしょう。
健康に長生きするためにも楽しく幸せな食事の時間をもっていただきたいと思います。そして、そのような食事をするために欠かせないお口の機能を保つために、お口の健康を維持するオーラルフレイル対策、ぜひ実践してみてください!
1)「歯科疾患実態調査結果の概要」(厚生労働省):17,2022. https://www.mhlw.go.jp/content/10804000/001112405.pdf(外部リンク)
参考
一般社団法人日本老年医学会, 一般社団法人日本老年歯科医学会, 一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会:オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント,老年歯科医学(38):86-96,2024
最終更新日:令和6年6月4日