2001.3月号
その1;リベースした義歯が外れない!
2月の連休直前の金曜日夕方、練馬区の先生からSOSの電話が入りました。訪問診療先で上顎総義歯のリベースを行ったところ、義歯が外れなくなってしまったのでした。訪問先では充分な器具がないことに加えて、患者さんは心疾患を合併していたため、連休明けに連れて行きたいとのご希望でした。
当日、はるばる2時間以上をかけて、80歳を越えた女性患者さんとご家族、担当の先生が練馬から到着しました。左上犬歯に根面キャップがあり、キャップ マージンと歯肉の間のわずかなアンダーカットにリベース用レジンが入り込んで固まってしまったようでした。位置の見当をつけて、タービンで注意深くキャップ周囲のレジンを削り取ったところ、5日ぶりに義歯が外れました。外れた瞬間、患者さんは私の手をしっかり取って喜ばれました。着脱できるものが外れないことは非常に不快なことです。大学時代に教え子が同様のことをしてしまったことがありました。リベース用レジンの硬化直前に義歯をわずか浮かせてから再び戻して硬化を待てば、このような事態は防止できることはご存じの通りです。患者さんはベッドで一休みしたあと、2時間の道のりを帰って行かれました。当科は全都的に知られるようになりました!
その2;コラムがお役に立ちました
ご記憶の先生はいらっしゃるでしょうか?'97年2月号に智歯抜歯の際にエアタービンによる気腫が頸部に生じた症例をご紹介いたしました。先日、この記事と似ているのだが、対処法の詳細は忘れてしまったので、とお問い合わせを頂きました。気腫の詳細は省きますが、症状はぴったりです。感染対策を充分に行い、観察を続けるようにお伝えしました。1週間ほどして症状は無事消退したと喜びのご報告を頂きました。5年も前の当コラムの記事がお役に立ち、こんなにうれしいことはありません。それにしても良く覚えていただけたものです。
これで平成6年10月の開院以来、エアタービンによる気腫は実際に目にしたもの1例、伝聞2例となりました。気腫について詳しく報告したコラムのバックナンバーをご希望の方にはファックス申し上げます。
その3;筋弛緩剤?
当院の重点医療課題の一つに障害者歯科医療が挙げられております。このため、当科の患者さんには脳性麻痺の方が少なくありません。精神発達遅滞を伴っている方から健常者以上のタレントを持っている方まで様々です。治療に協力しようと思えば思うほど緊張して治療台の上で不随意運動が顕著になって、通法では治療が困難な方々です。このようなときに静脈内鎮静法が非常に威力を発揮します。点滴路から緩和精神安定剤が入り始めますと、屈筋優位で関節が曲がって窮屈そうな身体がのびのびしてきます。皆さん「きたきたきたっ!」と喜ばれます。いつも明るくユーモアたっぷりのM.Yさんが私に訊きました。「筋肉の緊張が解けて楽になるけど、先生!これって筋弛緩剤?」