2011年3月号 次の一手

2011.3月号

 私達が行っている「抜歯」は、主に連携医の先生のご依頼を受けて行っています。連携医の先生方からのご紹介とあって、全身的に注意が必要である症例や、一筋縄ではいかないような症例がほとんどですので「抜歯」といってもその手法は様々です。
 そのような中で、レントゲンで診断し、抜歯困難が予想される場合は術者も警戒して手術を行いますので、ほとんどの場合は予定時間を大きく超えずに終了します。しかし反対に、通常ならば簡単に終わりそうな症例で「これは楽勝」などと油断した時に限って、とんでもないことになる事があります。実際に私も、大学の医局に在籍し、多少抜歯が出来るようになった頃…開業医の先生からのSOSコールを上席の先生がいないにもかかわらずに受け、歯根だけが残っている状態の抜歯を「なんでこんな単純な歯が抜けないのだろう」などと思いながら手術を開始。1時間たっても歯はびくともせず、帰ってきた医長の先生と選手交代。あっさりと抜いてくれた医長にこっぴどく怒られた苦い経験があります。
 そこで今回は、私のこれまでの経験から、抜歯に「はまった」時の次の一手についてご紹介したいと思います。
 まず、「はまる」可能性の高い歯は、1、まっすぐに生えている親知らず 2、骨に水平に埋もれている親知らずで、根がレントゲン上単根であるように見える歯 3、下顎第一大臼歯の残根状態(つまり歯の根っこのみのもの)です。これらを抜歯するときの対策として、教科書には歯肉剥離や骨削除、根分割等が記載されていますので、それらをまず行います。それでも出てこない。私がこのような状態になった時には、以下に述べる対策をとっています』

  1. 患者さんにうがいをしてもらって一息つく…一瞬でも術野から離れると新たな気持ちで続けられます。
  2. 術者の立ち位置を左右交換する…視野が変わることで、見えなかったものが見えてくる事があります。
  3. 術者の交代…つまり自分自身はGIVE UP。
  4. 勇気ある撤退…変わる術者がいない時や変わってもダメな時は、意地になって手術を継続しても患者さんと術者、お互い辛い思いをするだけです。早めに切り上げ、2週間後くらいに再チャレンジさせていただきます。

    大抵の場合、あっさり抜けます。
     抜歯は奥が深く、教科書通りにいかないことがほとんどです。自分の出来る技術を出し尽くしてしまうと、手術の手も止まってしまうので、常に手詰まりにならないよう、「次の一手」について研鑽を積む毎日です。

歯科コラム