2011年9月号 天井からホース

2011.9月号

 歯科外来診療室の天井から色のついたホースが4本ぶら下がっています。私がメインで使う診療台に座るとちょうど右斜め前に位置しており、患者さんは周りをよく見ていますから「先生、あれは何ですか?」とお尋ねになることがよくあります。4本の内の一つが青いホースで「笑気(しょうき)」と書いてあるので興味津々のようです。ちょっと治療を中断して御説明タイムとなりますが、歯科治療においてしばしば活躍する笑気ガスの送出ラインになっています。20〜30%の濃度で使用することにより中枢神経を抑制し、有意識下で不安、恐怖、緊張を緩和させることができます。確実なストレス軽減法として当科では点滴で薬を静脈に投与する静脈内鎮静法を用いることが多いのですが、鎮静深度の調整にはその患者さんに合った微妙なさじ加減があり、呼吸や循環器の管理を伴うため術者側にある程度の経験が必要です。更に、処置後の覚醒を確認しなければならないので安静の時間と場所の確保も求められます。一方笑気による鎮静法は、鼻からのガスを吸っていただかなければならないので、患者さんの理解と協力が必要ですが静脈確保などの手技がなく導入しやすいと思われます。笑気には若干の鎮痛作用と気持ちをリラックスさせる作用があるため、痛みに敏感で繊細な方や嘔吐反射の強い方などにはお奨めです。自分の体験では手先が少し痺れて頭がぼーっとした感覚になります。眠くなるわけではありませんが確かに恐怖心は薄れるようでした。前歯科部長で昭和大学歯科病院で活躍中の佐野先生も自分の歯のメインテナンスを歯科衛生士さんにお願いする時には「笑気でやってくれ!」とお気に入りでした。効果には個人差がありますが、簡便な方法ですので使い慣れると活用できる場面は意外と多いかもしれません。
 因みに「笑気」とは吸入すると顔が笑ったように引きつることに由来していますが、残念ながら楽しい笑顔の方は少ないようにお見受けします。

歯科コラム