2007.3月号
その[1]・ケスラーさん:開院以来12年にわたり当科を支えてきてくれた歯科衛生士のケスラー・ゆき江さんが昨年夏に退職しました。約12年前、都衛生局(当時)は2人の歯科衛生士を募集しました。150人を超える応募がありました。筆記試験で20人に絞られ、2次の面接には私も参加できました。選んだうちの一人とは新荏原病院で一緒に働くからです。天文学的な競争率の中から選んだうちの一人が彼女です。私の目に狂いはなく、歯科医師より衛生士の数が少ない当科で、複数から同時にオーダーを受けても、瞬時に優先順位をつけて、てきぱきと対応してくれる賢い女性でした。当科に赴任直後、アメリカ人のキース・ケスラー氏と結婚。働きながら1男2女を育てつつ、当科の運営を支え続けてくれました。昨夏、皆に惜しまれつつフロリダへ一家で引っ越してゆきました。新しい家は日本と違い、雄大な自然の中にはぐくまれていて、付近の沼には"野良ワニ"までいるそうです。習慣も常識も違う異国ですが、賢い彼女はりりしく、たくましく立ち向かっていくに違いありません。当科で開院以来の生き残りは、これで市川医長と私だけになってしまいました。
その[2]・気道内への誤嚥:昨年夏のある日、大森歯科医師会の連携医から緊急のSOSを受けました。クラウンのセット中に、これを誤嚥させてしまったそうです。担当医同伴で患者さんが到着し、直ちに放射線科で胸部のX線撮影をしました。右の気管支に築造体と金属冠が写っていました。消化管の方に誤嚥された症例は数多く見てきましたが(不肖私にも経験があります)、歯科医になって30数年の私が、気管内への誤嚥に実際に遭遇したのは初めてでした。忙しい外来診療の合間を縫い、ファイバースコープで見事に取り出して下さった内科の小倉先生、本当にありがとうございました。充填補綴物の着脱の際は、折り畳んだガーゼを口の端より喉の方までふわりと入れて、万が一取り落としてもこれで受け止めるようにすると安心です。詳細についてはいつでもご遠慮なく私まで。誤嚥させたインレー、金属冠などは他科の先生にはなじみの薄いものです。取り出してもらう際は目的物のイメージが湧くように、見本を持参することをお勧めします。ごく稀にこのように異物が気道にはいることがあり得ます。異物の行方の確認は不可欠です。
その[3]・国家試験:歯科医師国家試験が今年は例年より早く、2月の連休に行われました。以下はある受験生から聞いた今年の試験模様です。試験内容ががらりと変わって、例年以上に答案を書く時間が不足し、見直す余裕もなかったそうです。「歯科医師を増したくない厚労省の意向がよく分かった。」とは彼の弁。第一日目の午前の試験が終わった時、会場のある場所から、突然パニックを起こした女性の泣き声が聞こえ、声の主はそのまま泣きながら帰宅してしまったのだそうです。マークシート式ではなく、のどかな記述式だった頃の私から見ると、最近の国試は受験生に極限までのプレッシャーを強いる、魔物のような存在になってしまったようです。
その[4]・花粉症:花粉症に罹ってかれこれ20年ほど経ちます。歳をとったせいか初期の頃より症状は和らぎましたが、本格的な春になるまでは憂鬱な日が続きます。風に身を震わせながら黄色い花粉をまき散らす時、雄の杉の木は気持ちがいいのでしょうか?