2012年7月号 ワーファリンと抜歯 その2

2012.7月号

 永く拝見している50代の男性患者さんがいらっしゃいました。既往歴に一過性脳虚血があり、当院の他科よりワーファリンを処方されていましたが一見したところ健康そのものに見える方です。歯周疾患(歯槽膿漏)の傾向がありましたので過去にも何度か抜歯処置を行っていました。定期的にメインテナンスされていましたが、残念ながらまた一つグラグラに揺れている歯に引導を渡す時が来ました。乳歯が抜けるのと同様ですから、ご自分でも抜くことのできる歯牙です。「今までと同じですよ・・」という説明をしてあっという間に抜歯終了となり、ご本人も全く不安はなかったことと思います。ところが週末を挟んだ週明けの月曜日に他施設からお電話を頂きました。
「先生の患者さんが抜歯後の止血不良で土曜日に来院されまして・・」、「え!!」

血液凝固能の指標の一つであるPT-INRが2.0~3.0が適当であるところ6以上になっていたそうです。ワーファリンは同一量の服用でも効果が変動するお薬です。納豆を食べると効果が減弱することはよく知られていますが今回は、他に服用されていた薬剤との相互作用によってワーファリンの効果がいつのまにか増強されていたと考えられました。食事内容で血の止まり具合が変わってしまうぐらいですからガイドラインにも示されているように、可能であれば抜歯当日に血液検査を行うことが望ましい、ということになります。その一検査を怠り、今までと同じだから大丈夫という私の思い込みが招いたインシデントでした。

しかし、抗凝固薬を継続しての抜歯が望ましいけれども血液検査を直前にしなければならないのは歯科診療室の現場では悩ましい問題です。最近INR値の定期的な検査が不要であり、食事や併用薬剤の影響を受けにくい新薬も認可されていますが、まだ信頼性は低いようですし、診療所で簡便に血液検査ができる機器も費用対効果を考えると現実性に乏しい状況です。ここしばらくは「こんなにグラグラなのに・・」と思いつつ「念のために採血させてください」とお願いをしなければならないようです。

歯科コラム