2023.5月号
歯科口腔外科 長谷川士郎(はせがわしろう)
今回は冨江先生に担当していただいた患者さんのエピソードをご紹介します。
40代の女性が、下の奥歯の腫脹のためかかりつけ歯科よりご紹介いただき、急患来院されました。画像診断・臨床所見から根尖性歯周炎の増悪が疑われ、そして急性症状は落ち着いているものの、骨髄炎の兆候である口唇の知覚鈍麻を認めましたので、血液検査が施行されました。白血球2万の高値はある程度予想されましたが、ヘモグロビン4.6gは正常値の3分の1程度しかなく、直ぐに当日当番の内科Drの診察により輸血の適応、追加のCT撮影により、貧血の原因が子宮筋腫であることが判りました。入院管理下に輸血による貧血補正と、抗生剤による消炎を図り、順調に回復、6日後には軽快退院となりましたことは、ご紹介いただいた先生のお手柄と言ってもいいのではないでしょうか。
後日、入院中担当して頂いた産婦人科Drに伺いましたところ、子宮筋腫が原因の貧血は珍しくなく、疲労と思い込んだまま症状が進むと、不測の大出血で救急車、ということも考えられるそうです。患者さん本人にもインタビューさせていただき、「思い起こせば疲労かな、と思っていたのですが、息が切れることがあり階段を避けるようにしていた」とのコメントをいただきました。
顎口腔関連の急性炎症で採血をすることは、歯科クリニックでは日常的なことではありませんが今回のような経験をしますと、主症状に隠れた疾病が発見されることがあるため、やはり基本の大切さを改めて感じました。明らかに歯が原因と考えられても、症状が重篤であればスクリーニング検査を行うことで、原疾患の治療に集中できます。以前には歯からの炎症症状が愁訴でありながら、検査により白血病が見つかったこともあります。
もう一点再認識したことは院内の連携のありがたさです。歯科⇒内科⇒産婦人科とスムーズに受診していただき、即日入院決定となりましたが、各科が縦割りの大学病院ではこのように迅速な対応はできなかったかもしれません。医科の先生方にサポートしていただけることも病院歯科の強みですので、是非お気軽にご連絡いただきたいと思います。