2010年3月号 低血糖発作を起こした患者さん

2010.3月号

 いつものように連携医の先生より抜歯の依頼を頂きました。インスリン療法を行っている糖尿病の患者さんです。午前9時30分のお約束で担当医が問診をとり、診療台の背板を傾け口腔内診査を行いました。この間約10分ですが、上体を起こして口腔内をゆすいでいただいたところ、著名な発汗がみられ、こちらの話にも受け答えが緩慢、眼がうつろな状態となりました。直ぐに研修医と体を抱え車椅子に載せ、内科外来へ移送しました。
 血糖値は測定可能以下であり、患者さん本人は経口摂取の指示にも応答できなかったため、静脈路を確保しブドウ糖の静注を行いました(この時点で血糖値は12mg/dl)数分後、ようやく意識レベルが回復し、あんパンが食べられるようになりホッと一息です。(それでも血糖値は50mg/dl)内科担当医と外来看護師さんのおかげで速やかな対応ができました。
 今回のケースですが、検査データとしてはヘモグロビンA1cが5前後とほぼ基準範囲内でありましたが、朝の食事量が少なかったところにインスリンの投与があり低血糖発作を起こしたと考えられます。糖尿病患者さんの重症度は血糖値などの数値的なデータだけで推し量るのではなく合併症(腎障害・網膜症・神経障害・脳卒中・心疾患)の程度を把握することが大切です。この患者さんはいくつかの合併症を併発していました。また、症状についての認識が甘い方が多いので、治療状況、生活習慣などよく問診をとることも大事かと思われます。医科主治医よりの情報提供を受け、いざという時のためのシミュレーションも無駄にはならないでしょう。
 さて、今回のようなエピソードがクリニック内で起きたときの対応ですが、意識障害があり経口よりの糖分摂取が困難であれば、速やかに救急車の要請が望まれます。初対面で情報も限られている時には、臨床医の直感といいますか「何かこの患者さん調子悪そうだ」というセンサーも是非動員していただきたいと思います。

歯科コラム