2017年7月号 病院歯科としての後方支援

2017.7月号

 地域支援病院である病院歯科の役割として、在宅往診をなさっている先生方の後方支援があります。ホームグラウンドである診療所内で日ごろ行っている処置でも、患者さんの自宅や施設などのアウェイな環境では、多くの敵が待ち受けています。暗い口の中には照明が十分届かず、唾液を吸引したり食渣を洗い飛ばすことも簡単にはできませんので、先ず観ることから一苦労です。治療方針が整っても、使用できる器具には制限があります。患者さんの状況に合わせて、無理な体勢を余儀なくされます。そもそも外来通院が困難な患者さんには、いろいろな理由があるはずです。それら一つ一つに気を配り、リスクを回避しながら処置を遂行する、これほどストレスのある仕事はないと思われます。
 先日お手伝いさせていただいた患者様のケースです。他施設で入院中に経管栄養になってしまい、退院後も経口摂取を止められている方でした。ご本人の食べる意欲は十分、家族の介護能力も高く、往診の歯科医師も何とかしてあげたいと考え、当科と連携をとらせていただくこととなりました。2回に分けて入院をお願いしましたが、初回の2泊3日で嚥下造影検査(VF)と評価、口腔内の型取りを行い一旦退院していただきます。数日後の再入院で、予後不良歯牙の抜歯と即日に義歯を装着いたしました。事前に何度も往診医の先生と情報交換を行っておりましたので、入院時に患者さんとは初対面でしたが、全ての処置を安全に予定通り行うことができました。退院後の摂食嚥下マネージメントと義歯の調整は引き続きお願いすることになりましたが、経口摂取も一部可能となり、ご家族も喜んでいらっしゃるとお聞きしました。
今回は、患者さんと御家族⇔往診医⇔病院との連携が取れることにより、患者さんご本人の希望・往診医の負担軽減・病院としての地域貢献、それぞれのニーズがうまくかみ合ったケースだと思います。前半に偉そうなことを申しましたが、地域の前線でお仕事をされている先生方の少しでもお役に立てればと考えております。些細なことでも結構ですので、お気軽にご相談ください。

歯科コラム