2016年5月号 口腔内の痛み、その原因は?

2016.5月号

 斎藤先生の担当した患者さんのお話です。下顎左側臼歯部舌側の違和感を主訴に、いつもお世話になっているクリニックより紹介来院されました。食事や会話がきっかけで、1日に10回ぐらいジンジンとした痛みが生じるそうですが、歯科医師にとって最も馴染の深い歯が原因の齲蝕や歯周病ではなさそうです。 患者さんがおっしゃる部位に痛みに見合う異状所見が認められない場合、当科スタッフも診断に苦慮します。神経障害性疼痛の三叉神経痛は特徴的な発作性の疼痛が、その神経支配領域に生じますので、テグレトール®を処方しましたが、効果がありませんでした。

全身疾患や他部位の疾患に起因する痛みが口腔顔面領域に発生することが疑われる場合は、他科専門医への診察依頼を躊躇する必要はありません。その点、大学病院のように診療科単位の縦割りではなく、地域の総合病院は各科の連携がスムーズなので、すぐに神経内科、脳神経外科の先生に診察して頂きました。

驚いたことにMRI検査により脳腫瘍が見つかり、10日後に開頭手術となりました。頭蓋内腫瘍が口腔顔面領域の疼痛の原因になることは稀ではなく、知覚神経が中枢側で障害されていても疼痛や感覚異常などが現れるのは末梢です。

歯が原因と考えられない痛みの場合、安易に心理的要因と判断してしまったり、経過観察と称して原因の発見までに時間を費やしてしまうこともあるかと思います。定型的な症状を逸脱した所見が認められる場合は、遠慮なく他科に精査を依頼することが大切です。今回も院内医科の先生に助けていただきました。医科への依頼の窓口として、当科をご利用いただくことも結構ですので、どうぞお気軽にご連絡ください。

(4月より産休明けの冨江先生が復帰し、無事に国家試験をクリアした九州歯科大卒の八木美沙紀先生が研修医としてスタッフに加わっております)

歯科コラム